AIチャットボットとはそもそもなにか?
もともとチャットボットは、ユーザーと自動でチャットをするプログラム全般を指します。大きく分けて2種類があり、AIが搭載されている「AIチャットボット」と、元々設定されたルールに応じて回答する「シナリオ型チャットボット」の2つです。
シナリオ型チャットボットは、あらかじめ想定質問と回答を登録しておく必要があります。そのため、登録されていない内容には対応できません。一方で、AIチャットボットは多くの質問に柔軟に対応できるため、AIチャットボットの導入が増加しています。
AIチャットボットの種類
AIチャットボットの中にも、技術方式の違いで、大きく分けて3つの分類があります。従来の機械学習型、近年注目のRAG型(Retrieval Augmented Generation)、そして生成AI型(大規模言語モデル活用)です。
機械学習型チャットボット
機械学習型チャットボットは、学習データを登録し、回答の正誤評価のプロセスを経て、賢くなっていくタイプのAIチャットボットです。過去の対話データを学ぶことで新しい質問にも対応できるため、シナリオ型に比べ自然で柔軟な会話が可能です。事前に大量のFAQデータなどを学習させておく必要がありますが、使用を重ねるほど回答精度が向上します。
RAG(Retrieval-Augmented Generation)型チャットボット
RAG型チャットボットは外部データなどをリアルタイムに検索し、その情報をもとに回答を生成するチャットボットです。ユーザーからの質問に対し、まず関連情報を社内データベースやドキュメントから検索し、抽出した情報をもとにAIが回答を生成します。
通常の生成AIモデルでは社内の知見を回答に反映するということが難しいのですが、RAG型では最新の社内ナレッジや大量の過去ドキュメントをリアルタイムに参照できます。在庫データなどを読み込ませて社外向けに展開することも可能です。
RAG型チャットボットは、自社専用のチャットボットを作成することが可能なため、企業の業務効率化のための有効打として注目されています。
生成AI(Generative AI)型チャットボット
Chat-GPTのような大規模言語モデル(LLM)を活用したAIチャットボットです。生成AIモデルがあらかじめ学習した膨大なデータと、ユーザーからのプロンプトの双方をもとにリアルタイムで回答文を生成します。
従来のシナリオ型チャットボットが用意済みの定型文しか返せなかったのに対し、生成AI型はユーザーの指示を理解し、新しい回答を作り出せます。一方で、正しくない回答を出してしまうケースもあります。また、社内データなどの独自情報は回答に反映されません。
企業や自治体における活用シーン
AIチャットボットはさまざまな業界・分野で活用が進んでいます。
企業全般:カスタマーサポート、社内ヘルプデスク
顧客からの問い合わせ対応にチャットボットを導入する事例が増えています。マニュアルに沿った定型的な質問であれば、AIチャットボットに任せることで24時間365日の対応が可能です。「商品の返品方法を知りたい」「営業時間を確認したい」といった頻出質問に自動回答し、オペレーターの負荷を軽減できます。
「特定商品の在庫確認」といった問い合わせも、在庫管理システムと連携すればチャットボットが自動回答してくれるようになります。
ECサイト:商品レコメンド・注文サポート
ECサイトでもAIチャットボットが活躍しています。ユーザーからの商品に関する問い合わせや注文手続きの質問にも24時間365日の対応が可能です。購買意欲が高まっているタイミングを逃さず、適切に応答できます。また、該当商品がなくても、類似商品をレコメンドする、またはクロスセルを狙うことも可能です。
店舗ビジネス:来店・予約管理
ECサイトと同様に、実店舗を構えるビジネスでも、AIチャットボットが顧客対応や業務効率化に利用されています。店舗の公式サイトやLINEにAIチャットボットを導入すれば、「商品在庫の確認」「取扱のある店舗」「サイズや色違いのラインナップ」など、商品に関する質問に回答可能です。飲食店や美容院などでは「メニュー・コースの説明」や「予約受付」も、メニュー情報や予約管理台帳と連携して自動化も可能です。
自治体:住民や外国人向け案内チャットボット

自治体でも住民向けサービスとしてAIチャットボットの導入が進んでいます。東京都渋谷区では、行政手続きや制度に関する質問を入力すると、FAQから回答が表示される総合案内チャットボットがあります。また渋谷区では、多言語対応のAIチャットボットを導入し、外国人住民や観光客からの問い合わせにも応答しています。
参考:(紹介記事)
AIチャットボットの導入メリットとデメリット
メリット
24時間対応による顧客満足度向上
深夜や休日でも即時対応できることで、顧客の満足度の向上や、購買意欲の高いユーザーの離脱防止などの効果があります。
業務の効率化と人件費削減
繰り返しの問い合わせ対応をAIに任せて自動化することで、スタッフの負担を軽減したり、人件費の削減になります。コールセンターやサポートデスクのスタッフの働きやすさも向上します。
データ収集と顧客分析の強化
AIチャットボットとの対話ログがすべてデータとして蓄積されるため、それを分析することでユーザーのニーズ把握、サービス改善に役立てられます。顧客ニーズだけでなく、社内用チャットボットであれば社内のニーズや困っていることを把握できるのでその点もメリットです。
問い合わせの多い質問をもとにFAQを作成してチャットボットに組み込んだり、活用の多い時間帯を把握して、サービス体制を見直す、という活用もあります。
カスハラ(カスタマーハラスメント)対策
カスハラとは、顧客が企業に対して理不尽なクレーム・言動をすることです。クレーム対応は対応スタッフのメンタルヘルスに悪影響を及ぼす可能性がありますが、こちらもAIチャットボットを活用することで、オペレーターの負担軽減が期待できます。
対応品質の均一化
人による対応と違い、常に一定の品質で回答できる点もメリットの一つです。最新情報やマニュアルに基づいた正確な回答を提供しやすくなり、属人的な対応によるミスや漏れを防止できます。
デメリット
初期導入コスト・ランニングがかかる
AIチャットボット導入にはサーバ費用、ライセンス料金、月額利用料などなんらかのコストがかかります。とくに導入初期はシステム設定や環境構築などの人件費・外注費が発生し、多額の費用になる場合もあります。継続して使用する場合もランニングコストは発生します。
シナリオ設計・維持の負担(シナリオ型の場合)
シナリオ型チャットボットでは会話フローや回答パターンを事前にすべて設計する必要があります。問い合わせパターンが多岐にわたる場合、シナリオの分岐が増えて設計・更新の工数は膨大で、適切なフローにするのに苦労します。
一方、近年のRAG型チャットボットや生成AI型では、初期の設定の負担はかなり軽くなっています。RAG型はAIと社内データベースを紐づけるため、チャットボット用に細かくシナリオを手動で設定する必要はなく、その部分もAIが行ってくれます。
精度向上には学習データが必要
より正確に最新の情報で回答してもらうためには、定期的なデータ更新が必須です。最新の情報に対応するためには、運用担当者によるチューニングやFAQ更新といったメンテナンス作業が継続的に発生します。一方でそれを差し引いたとしても、人員が一人ひとりチャット対応するコスト・工数を考えると、費用対効果は上回るケースも多くあるでしょう。
適切な対応ができないケースも
想定外の質問には正しく回答できないことがあり、間違った内容を正しい内容のように誤認させる可能性もゼロではありません。とくに一般的なチャット型の生成AIをすでに利用している人は感じたことも多いでしょう。企業の公式対応窓口にて、提示された情報が正しくない、といった事態を避けるためにも、運用方法や人によるチェック体制はまだ必要です。
AIチャットボットの選び方と導入ポイント
目的を明確にする
まずチャットボット導入の目的を設定しましょう。「問い合わせ対応の工数の削減」「ECの購入率の向上」といった成果指標や、想定利用シナリオ(顧客対応/社内ヘルプデスク)を明確にしましょう。
目的や用途を明確にすることで、委託先候補の企業に問い合わせをするときに、導入規模・予算・どのタイプのチャットボットが必要かがスムーズに伝わり、検討しやすくなります。
学習データの整備
前述の通り、チャットボットの種類によっては、AIが適切に応答するためのFAQ・類義語データベース・過去の問い合わせ履歴などの情報を用意し、構造化する作業が必要です。
生成AI型やRAG型ではこうしたデータ整備等の負担は軽減されますが、一定量の社内知識のデジタル化・FAQ整備は必要です。最近では、AIチャットボットが正しい回答をするために、企業が持っているデータを最適化してくれるサービスも登場しているため、学習データの整備についてもハードルが下がりつつあります。
導入前に考慮すべきポイント
初期費用・ランニングコスト
コスト面でのポイントは以下です。
- 開発費用や設定費用
- 月額課金制か従量課金制か
- 利用料はどの程度か
とくに従量課金制は、サービス規模が大きくなるほど金額も大きくなるため、将来的な利用の増加も見据えながらプランを検討しましょう。
使いやすさ・カスタマイズ性
多機能=使いやすい、というわけではありません。むしろ多くのチャットボットでは、多機能すぎるがゆえに、設定項目が多すぎて使いにくいとの声が上がるケースも少なくありません。とっつきやすく、現場に浸透しやすいという意味では、必要最低限の機能あるものを採用するのがおすすめです。
また、非エンジニアでも導入設定できるものなのか、またマストで入れたい要件(多言語対応など)に対応しているかはチェックポイントです。
連携システム・サービス
顧客サポート用途であれば、CRMシステムや顧客データベースと連携して個別の契約情報に基づく回答を出す、といった使い方が考えられます。社内向けであれば、人事データベースや社内Wikiと繋げて最新の規程について回答させることもできます。
GoogleやMicrosoftのプラットフォームサービスなどに連携してデータ分析ができるかどうかなどもチェックしましょう。
AIチャットボットのサービス例
近年は多くのAIチャットボットサービスが提供されています。代表的なサービスを紹介します。
Zendesk AI

大手カスタマーサービスプラットフォームであるZendeskが提供するAI機能です。既存のZendesk製品(サポートチケットシステム等)と統合されており、AIチャットボットによる自動応答やエージェント支援(回答候補の提案など)が可能です。メール、チャット、SNSなどのマルチチャネルに対応しており、すでにZendeskを利用している企業が導入しやすい点もポイントです。
https://www.zendesk.co.jp/service/ai/#step-1
PKSHA AIヘルプデスク

PKSHA Technologyが提供する社内向けAIチャットボットです。Microsoft Teams上で動作し、社内の問い合わせ対応を自動化してくれます。社内ナレッジの有効活用と運用負荷の極小化を掲げており、問い合わせログ分析に基づきAIが頻出質問を検出してFAQ化を提案するなど、メンテナンスコストを下げる工夫がされています。すでにTeamsを使用している企業が導入しやすいのもポイントです。
https://aisaas.pkshatech.com/solutions/order-sol/
AnyChat

AIやプログラミングの専門知識なしで、ウェブサイトやアプリにAIチャットボットを導入できるサービスです。自社のデータをアップロードするだけでAIチャットボットを構築できる手軽さが特徴です。 LINEやインスタグラムと連携して、主にECモールなどの顧客対応を自動化できます。
まとめ:チャットボットは運用コストが下がりつつ実用性が高まっている
AI技術の進化により、チャットボットは単なる定型応答ツールから、柔軟で高度な対話が可能なシステムへと発展しています。従来のシナリオ型では対応が難しかった自由入力の質問にも、機械学習や生成AIの活用で適切に回答できるようになりました。とくにRAG型は、社内データや外部情報と連携し、企業ごとのニーズに応じた高度なカスタマイズが可能な点で注目されています。
企業や自治体では、業務効率化・コスト削減・カスタマーサポート強化など、さまざまな用途でAIチャットボットが活用されており、今後もその導入は加速していくと考えられます。ただし、導入には目的の明確化・学習データの最適化・使いやすさなどのポイントを押さえることが重要です。