AI時代における弁理士の役割や代替できない価値とは?知財AIサービスの例も

大森 敏彦
大森 敏彦
June 27, 2025
AI時代における弁理士の役割や代替できない価値とは?知財AIサービスの例も
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弁理士の業務内容について

弁理士は、知的財産(IP)に関する専門家として、特許・商標・意匠などの取得や管理、知的財産権に関する法律業務を担う職業です。業務範囲は幅広く、その中でも特許庁への出願代理業務、鑑定業務、知的財産に関連する紛争処理業務などは、弁理士法において弁理士の独占業務とされています。

独占業務でない範囲として、出願書類の作成や、知財に関する企業へのコンサルティングなどがありますが、これらも弁理士に依頼されることの多い業務です。

AIの浸透により弁理士の業務はどう変化するのか?

他の職種と同様に、弁理士の業務の中で、AIの特性を活かせる分野は数多くあります。一方で、今後はプロである弁理士がより付加価値を出していける分野が際立っていくと考えられます。

書類申請、審査官対応などはAIがサポート

特許や商標出願の書類の作成など、文書作成はAIが得意とする分野です。今後はAIによる作成支援も進んでいくでしょう。また、申請後の拒絶理由の分析や、審査官対応(文面作成)についてもAI活用が進んでいく可能性があります。弁理士自体が業務の一部をAIにサポートしてもらい、人間でなければ対応がしにくいより専門的な業務を担当していくことも考えられます。

弁理士はコンサルやクライアントサポートがメインの業務へ

クライアントへの知財コンサルティングの業務は、弁理士の需要が増えていくでしょう。AIは0から60点程度を出すのは得意ですが、最終的にはプロの確認・修正が必要なため、書類作成・確認業務の需要も一定して残り続けます。

AIが効率的にデータ収集や加工を行い、弁理士がそれをチェックし戦略を立案、クライアントのサポートをする形に、業務内容も変化していくでしょう。

弁理士業務の中でAIでの効率化が可能な業務

弁理士がAIを上手に活用しながら、効率化していける業務の例を紹介します。

特許・商標の調査 / 判例・法改正の情報収集

すでに公開されている先行技術や特許の調査は、AIがとくに力を発揮する部分です。これまでの調査は主に「キーワード」検索でしたが、難解な特許文書を探し当てるのは至難の業でした。AIはより多角的な検索が可能で、文脈・類義語を理解して、文献を効率よく検索してくれます。

AIが特許文書の文脈を理解できれば、類似度解析もしやすくなるので、調査業務はかなり効率化されていきます。

ほかにも、最新の判例や特許庁のガイドラインを自動収集したり、法改正の概要をAIが整理し、弁理士の学習コストを下げる、といった活用も期待できます。

出願書類の作成補助

AIはフォーマット化された書類を学習し、似たような書類のドラフトを精度高く作成してくれます。過去の類似案件があれば、ドラフト作成が可能なため、書類作成業務の効率が向上していくと予想されます。

議事録・レポート作成

AIによる音声の文字起こし・要約は、すでにビジネスのさまざまな分野で活用されていて、サービスも数多く登場しています。クライアントとの打ち合わせ内容の自動要約、調査結果を元にAIが論点を整理してレポート化するなどは、多くのシーンで導入されています。

AIでは代替しきれず弁理士が価値を発揮すべき業務

一方で、AIではなく弁理士が価値を発揮するべき業務も多分に存在し続けます。

AIが作成した書類の最終チェック

AIが作成した書類を、そのまま人のチェックなく使用できるケースはまだまだ少ないです。どの分野でも人間の確認は必要ですが、とくに弁理士という国家資格が必要な専門業務の場合、ドラフトの確認・修正はもちろん、法的リスクの判断などが求められます。クライアントごとの戦略に応じた調整も必要です。

法改正や国際特許戦略の策定

AIでは対応が難しい新制度への適用判断も、弁理士でないと対応が難しい分野です。海外特許制度の個別対応などのテクニカルな内容は、クライアントからするとプロに戦略策定してほしいというニーズもあります。

特許・商標の申請業務

特許庁への代理出願は弁理士にのみ認められた独占業務です。複雑な申請手続きは、弁理士に依頼するニーズは今後も残り続けるでしょうし、AIが最も代替できない業務の一つです。

クライアント対応と戦略立案

このあとの段落でも紹介しますが、すでに登場しているAIサービスでも、類似事例の検索や、書類作成の自動化などは可能です。一方で、そもそもの類似事例をAIで探す行為も、弁理士の知識・経験がないと調査不足になる可能性は大いにあります。最初の調査設計は、プロが力を発揮する分野です。

そのことを踏まえると、企業ごとの知財戦略の策定・コンサルティングやアドバイスなどは、弁理士が大きく価値を発揮する分野でしょう。

AIを使った知財サービス例

Cotobox

https://cotobox.com/

Cotoboxは、AIを活用した商標登録サービスです。AIを使用し類似の商標が過去に登録されていないか簡単に検索でき、提携先の弁理士に出願依頼も可能となっています。オンラインで申し込みが可能で利用企業・団体の実績も豊富です。

みんなの特許

https://aisamurai.co.jp/minnano-tokkyo/

みんなの特許は、すでに似た特許が出願されていないかの調査や、特許出願書類の文章作成をAIがサポートしてくれるサービスです。作成した書類の代理出願や権利化などの業務は弁理士が行ってくれます。

PatentPal

https://www.patentpal.com/

PatentPalは、アメリカ発のサービスで、特許明細書のドラフト作成をしてくれる生成AIサービスです。テキストだけでなく、仕様書や図の作成なども行ってくれます。

Questel Orbit

フランスのQuestel社は、AIを活用した特許関連のソリューションを複数提供しています。AI-Classifierというソリューションは、AIによって特許文書の効率的な検索・分類が可能です。また、特許だけでなく商標の検索サービスもあります。

https://www.questel.com/ja/patent/ip-intelligence-software/ai-classifier/

まとめ:弁理士はAIを上手に使いこなし、プロとしての価値提供の時間を増やそう

今回の記事では、弁理士の仕事がAI時代にどのように変化するかについて紹介してきました。AIにより書類作成・先行事例の調査・法改正内容の要約や整理などはかなり効率化されていきます。一方で、弁理士の独占業である代理出願業務や、顧客とのコミュニケーション、書類や戦略などの最終確認・判断・修正は、プロの価値を発揮する領域です。仕事が奪われるのではなく、より多くの重要な仕事に向き合える時間が増えるという考え方で、AIを上手に使いこなしていきましょう。

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大森 敏彦
大森 敏彦
2016年からWebマーケティング業務に従事し、プログラミング教育事業やBtoBマーケティング、旅行業界などに携わる。自作のGPTsではスプレッドシートの業務効率化を日々行なっている。好きな生成AIはGemini。
峯林 晃治
監修:
峯林 晃治
Webディレクター、SEOコンサルタントを経て、2013年に事業会社に入社。主にBtoB領域のデジタルマーケティングに携わる。2020年に独立。ファストマーケティング株式会社を立上げ、BtoB企業向けのコンテンツマーケティングの支援サービスを提供。
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